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お題まとめ

ねえ お願いがあるんだ聞いてくれるかな
僕が帰って来なくても、君に悲しんで欲しくないんだ
喉が枯れる程泣いて欲しくなんかないんだ
でも 一緒に居たことは忘れないで
これだけは約束してね
遠からず来るさよならの為に

 

ウーフー/願いの糸

朝早くにあの娘はここから立ち去ろうとしていたが、

不意に降り出した雨にやむを得ず、

「もうしばらくここに居ます」と不本意そうに呟いた。

天の恵みとはこの事だ。

ふっ、と笑みを浮かべてしまった自分に、

ああ、大の男がみっともないだろうがと目をつぶり、唇を噛み、左胸で高鳴る鼓動を聞こえぬふりする他なかった。

 

リュウロン/遣らずの雨

 

恋は己を腑抜けにすると、里に居る頃再三教えられた。

だが俺はこれを恋だと認めたつもりは無い。

うつつを抜かしている所ではないということは分かっているし、むしろあの

軟弱なゼロと比べれば、俺の方が遥かに忍というものを理解しているはずだ。

現にそらみろ、腑抜けたあいつはあの女に詰め寄って…おい、

駄目だろうそれは!手も顔も近すぎるだろ!口づけでもするつもりか!

見ていられなくなり暴走した俺がそのままゼロに突っ込んで行って返り討ちに

遭ったのは言うまでもない。

後日、本当は髪の毛についたゴミを取ろうとしていただけだったことが

判明したので、頭にできたたんこぶをさすりながら、

やっぱり恋なんて碌なもんじゃないと思った。

 

カゲ/心化粧

ベッドのスプリングが軋んだ音を立てる。指を絡めた女の手は柔い。

緊張しているらしく、冷たい手をしていた。俺に体の自由を奪われているせいか、

マスターとクルースニクに呼ばれていた彼女は、体をぐっと強張らせている。

そんなに身構えるなよ、取って食うわけじゃないと教えようと思ったが、

怯えた目つきは図らずも俺を喜ばせるもので、

誤解を解くにはもったいないからしばらく黙っていようと思った。

自分の性根の悪さには呆れるが、今に始まったことじゃない。

明り取りの窓を見上げれば、空には血の色をした月が昇っていて本性を暴き立てるような赤い夜光に照らされて俺は頭がくらくらして正気が飛びそうになった。

 いたずらに目の前で縮こまってる相手の首筋をべろりと舐めたら涙をこぼして震えていて、

それが更に俺を意地悪くさせることにも気付かないで好き勝手されている。

今夜はどちらにとってもさぞかし長い夜になるだろうと濡れた顔を見つめ、

頬の輪郭を指でなぞり、くっと笑った。

「始めようぜ」

 

クドラク/恋闇

霧が晴れようとしている朝の森で、一度だけ出会った女の子のことを
考える時間が日に日に多くなっている
僕は確かにあの子と出会ったのは初めてのはずだった
それなのにどうしてずっと前にも同じように出会った感覚が
僕の中にあるのか分からない
世に言う『既視感』を味わうのはこれが初めてで
僕はそれが疑問だったけど、どうしてか嬉しくて
実感して照れくさくなった。そうかこれは恋だったんだ
心の内で呟いて幸せな気持ちでベッドに横になった
もう一度あの子に会いたい

 

 おもいだした 全部全部思いだした。

僕が彼女に感じたデジャヴの原因を。

僕が守れなかった人だったからだ 結婚を約束していた。

 彼女は僕が駆け付けた時にはもう宿敵の手にかかり

冷たくなっていた あの肌を覚えてる。血の気が引いた唇に触れた。

僕は泣き叫ぶことしかできなかった。

 

 今生では絶対に守らなければいけない

今までなにもかも忘れていた自分を愚かしく感じた。

愛しい人、やっと思い出したよ 今度こそ結ばれよう 今度こそ愛し合おう

もう邪魔は入らないようにしよう  君がたまらなく恋しい。

すぐに迎えに行くよ そしてあの頃のように僕の名前を呼んでくれ

もう一度君に会いたい。

 

クルースニク/恋蛍

もうじき日が落ちそうだね、なんて他愛ない話をして、
笑うあいつの顔を眺めていた。
ろくに中身なんてないけど、マスターの息抜きになれば問題ない。
マジカはマジマジうるさいとか言われるけど、

俺が無言でなにも喋らない方がマジでずっと気持ち悪いだろって言ったら、それもそうだねなんて言われた。

失礼なやつだな、なんて相づちを打ちながら
今日も何気ない一日が終わる。こうして毎日が過ぎていけばいい。
俺はお前の特別なただ一人なんかになれなくて構わないから、
時々はこうやって、お前の話し相手にしてくれよな、ってこっそり考えていることは恥ずかしいから、

絶対に秘密。
 

マジカ/恋衣

咲きほこる桜も春の嵐が吹けば散らされる。
さもありなん、と空しい心地になるものだが、
このひとを散らしたのは風でも雨でもなく俺で、目を合わせても、

労りの言葉も掛けられない自分にじれったくなり

ごくり、と飲んだ息をどうにかして言葉に変えようと決心した矢先、
「とかして」と小さく囁いたあのひとを前に、そんなものは崩れ去ってしまったようだ。

 

ヒエン/私語

虚ろな目をした娘を抱え、勝手知ったる森を駆ける。

掴むことなど叶わぬ泡のような乙女だと思っていたのに、それが今や、

我身に抱かれてぼんやり虚空を見つめている。

 

いつか見た夢でないことが心地よかった。

 

謀り連れ去ることなど、私にはたやすいこと。

弟の想い人だ。奴と同じ血が流れている私が同じように惹かれないはずがなかった。さっさとこうしておけば、どれだけ気が楽だったことか。

可哀想なことをしたが、これも我が民の為。

手弱女には無理を強いるが、森へ引き入れ我が子を産み育ててもらおう。

ハヤテよ、お前の主はもう私のもの。

二度と返してやるものか

 

オロシ/泡沫

お題語句説明 

 

・願いの糸(ねがいのいと)…七夕の竿先にかける五色の糸。織女星に手向ける。
・遣らずの雨(やらずのあめ)…行かせたくない人を引き止める雨。
・心化粧(こころげそう)…愛する人に会う為の心の準備。
・恋闇(こいやみ)…恋の為に心が乱れ、理性を失った状態。

・恋蛍(こいぼたる)…恋焦がれる気持ちを蛍の光にたとえたもの。
・恋衣(こいごろも)…常に心から離れない恋。

・私語(ささめごと)…内緒話。囁き。

・泡沫(うたかた)…水面に浮かぶ泡。掴めないものの儚さ。

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